第41回

 『漁る盲人』


 お前はこの世界を何も知らないから、
 お前は世界に語りかけなければならない。


 愛や、公平や、享楽という言葉の皮を被らせたまま、
 単なる欲望を叩きつける猿の一人として。
 お前は人間にはなれない。
 人間という名義は猿を猿から区別するための自称である。


 欲望はゴムのような働きをもって、
 相手をノックアウトした後にこちらへと跳ねかえる。
 往来に出れば、
 顔面を陥没させ前歯を垂らす猿どもが見えるはずだ。
 蚯蚓の大群が。


 お前はこの世界を何も知らないから、
 お前は世界に語りかけなければならない。


 どれほど生きることに幻滅しても、
 死ぬことは救いになどなりはしない。
 キリストも釈迦もマホメッドも、隣の家の老婆でさえ、
 魂の永遠を説いて安心させる。


 ここが蚯蚓となった猿どもの住まう世界ならば、
 お前もまた腐っていかねば一員として認められない。
 醜悪になることが心の安定を招く。
 そして頭の中に残った美しさを忌み嫌う。


 どれほどお前が成り下がっても、
 生きることは救いになどなりはしない。
 世界は早く気づくよう待ちわびている。
 猿は蚯蚓であり、そして鴉であると。