第16回

六本木ヒルズにいってきました。
お札が飛んでいく入場料に呆れつつ、税関のようなものものしい入り口に近未来を感じ、52階まで40秒という説明に息を飲み、まったく音を立てない上昇に耳をやられ、じょじょに暗く赤くなってゆく天井に、雰囲気というものをどれだけ考えているかを逆に考えさせられた。
が、それくらいのことは小さいことだった。
そして52階という想像できなかった高さの夜景を見た。薄暗い、感激の黄色い声と好奇心だけが支配する空間で。
始めてみた時に、はるかな前方に灯りの線が見えた。
立ち並ぶビルが重なり、それがはるかむこうで一つの線を作っていた。線をつむぐライトからライトを、チャコールグレーで塗りつぶしたような夜が押しつぶしていた。それを見た時に海を思い出した。暗闇が作り出した光の海。人間が作り出し育んできた海。
そしていつしか、自分は魚のように歩いていた。目に見えないのに、水のように静かで垂れ下がってきそうな、その息遣いが聴こえてきそうな空気の中を。肺とエラにどれほどの違いがあるのだろうか。口をパクパクさせて空気を吐き出すのはどちらも一緒だ。
生物が魚から進化したことが、どんなに身近に感じられただろうか。


お金を出しただけの価値はあると思います。もうちょい安くて近ければ、何度でも行ってみたい。
あんな場所にいれば考え方が変わってしょうがないとも思えた。だって高さがわからないんだぞ。ほとんどの建物が。一億円持っている人間に1万と2万の差が本当にわかるか。わかるはずないんだよきっと。